対話型鑑賞とは
グループで一つの作品をみることで、
互いに異なる意見を聴き合い、作品について考え、
作品を深く鑑賞していく美術鑑賞法です。
英語ではVisual Thinking Strategies、VTSと表現されています。
日本語は意訳されていますね。
対話型鑑賞の始まり
1988年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の当時の教育部長フィリップ・ヤノウィン、認知心理学者アビゲイル・ハウゼンによって研究・開発された、鑑賞者主体の美術鑑賞法です。
それまでは、美術館の学芸員は来場者に対して作品の背景や想いについて情報提供をするスタイルで鑑賞を提供していましたが、そのやり方では来場者の美術への関心の高まりや美術館への再訪を促すことにはつながらないことに気づき、上記の研究開発が始まったそうです。
現在では、対話型鑑賞による様々な力が育まれることがわかってきており、世界各国で教育カリキュラムとして、学校、美術館・博物館をはじめ 医療現場や企業研修として取り入れられています。
対話型鑑賞によって育まれる力とは
まず、対話型鑑賞の中で起きている事象は非常にシンプルで、「観る」「考える」「話す」「聴く」というサイクルが起きているだけです。
作品を「観て」、観ながら何が起きているのか「考え」、ファシリテーターの問いによって自分の考え感じたことを「話し」、他の人の話を「聴く」というサイクルです。
そして他の人の話を受けて改めて「観て」さらに「考え」生まれてきた感情や考えをまた「話す」。
ということが鑑賞中にグルグルと起きていきます。
たったこれだけのことなのですが、これらのアクションによって、下記のような力が育まれると言われています。
- 観察力
- 探究心
- 論理的思考
- 批判的思考力(様々な角度から見て、多様な解釈の可能性を検討する力)
- 自己対話力
- 言語化力
- 受容力
- 傾聴力
- 対話力
- 自己認知
- 自己肯定感
- 答えのない状況に耐えうる力(ネガティブケイパビリティ)
非常に多くの分野へ波及効果があることが見て取れ、対話型鑑賞が持つポテンシャルを感じずにはいられません。
アビゲイル・ハウゼンらの調査研究では、VTSを1年で10回実施した小学生のクラスは、美術鑑賞力だけでなく、他教科(読解力など)の成績も向上した、という研究結果を発表しています。
アート作品を見て培われた能力が、日常生活をはじめあらゆるシーンで活用できていくのです。
対話型鑑賞の面白さと特徴
対話型鑑賞の本来の目的
対話型鑑賞の本来の目的は、「美術鑑賞力を上げること」です。
鑑賞力が上がることで、作品がよりよく見えてきて、美術鑑賞をより楽しむことができるのです。
先に挙げた育まれる力、というのは、その鑑賞力が上がることによって生まれる副産物的効果です。
その副産物的効果が教育関係者の目に留まり、教育カリキュラムとして広がっていっています。
そして、私もこの副産物的効果に興味を持ち、「アート」から「対話」そのものを主題としたコミュニケーション能力を向上するワークショップなるものを何度か開催してみました。
対話型鑑賞の特徴
対話型鑑賞ファシリテーターの学びや実践を通して感じる特徴、と言いますか「すごい!」と感じるのが
- 正解のないアートだからこそ、感じたままを言いやすい環境が自然とできる。
- (ファシリテーターの力が求められるが)ジャッジメントがない、ただ受容されるしかない世界観をしっかりと体感できる
- 同じ作品を見ているはずなのに、着目する要素、受ける印象が人によって本当に違う、ということを体感できる
- 誰も傷つくことがない、恥ずかしいと感じることもなく自分の意見を口に出す体験ができる
- 他の人の話を聞いていると、初見時とはどんどん違う見え方になっていく変化を体感できる
ただみんなで絵を見て感想言い合ってるだけなんだけど、ものすごいエネルギー交換&相乗効果を生み出す素晴らしい時間になっちゃうんです。
対話型鑑賞を活用したワークショップ
そんなわけで、「伝える」とか「対話」というものに着目し続けている私としては、こんなに面白い&刺激になる対話型鑑賞を活用して、コミュニケーション能力に寄与するワークショップをやってみたい!と2度ほど開催をしてみました。
▶︎アートでチームをマネジメント!?”本質的”対話力UP!ワークショップ
▶︎<アートでチームをマネジメント!?第二弾>アートを通じて「伝える力」を学ぶワークショップ!
本当は第三弾までやろうと考えていたのですが、一旦別の探究に時間を使うことにして現在はお休みしてます。
でも、この記事を書くために振り返りをしていたら、またワクワクしてきちゃいました笑
お声がけ頂けることがあれば再開したいと思います!
学んだ講座
NPO法人芸術資源開発機構(ARDA) が提供している【対話型鑑賞ファシリテーター講座】19期 で私は学びました。
対話型鑑賞ファシリテーター養成講座(社会人・教員)を不定期に開催されているので、興味のある方はチェックしてみてください。
講師である三ツ木紀英さん(みつきのりえ/アートエデュケーター・アートプランナー・ARDA代表理事)は、ニューヨーク近代美術館の元教育部長フィリップ・ヤノウィン氏から直接、一年にわたりVisual Thinking Strategies を学んだ方です。
対話型鑑賞の在り方も、目的とファシリテーターの在り方により、非常に様々な形があると思っています。
三ツ木さんはそこも踏まえて、基本をしっかりと伝えてくれます。
ファシリテーターとしての在り方も、三ツ木さんの行動、言動、そして講座中での力強いフィードバックからも学ぶことがあったと感じています。
最近参加できてないけど、その後の同期内での学ぶ時間も支援してくれます。
対話型鑑賞との出会い/Special Thanks
対話型鑑賞に出会わせてくれたO氏(VTSについてnote)、そしてO氏と一緒にVTS探究をしてくれたS氏に大感謝です!
「コミュニケーションがテーマのしゃべり場」と題して
- 今気になっている「コミュニケーション系」の何かについて共有する
- 話題のツール・手法を検証する
- 各々の環境での課題検証
- その他興味あること
などなど集まったメンバーで
「なるほど」
「面白い!」
「今度これやってみよう」
と発見・チャレンジのお持ち帰りが楽しい場
を作った時に、上記の2人が参加してくれました。
2~3週間に1時間集まってただ話す。
という時間の中で、O氏が対話型鑑賞を教えてくれて、みんなで色々と試すということをした約1年間でした。
この時間のおかけで、ARDAへ学びに行き、そこからアイディアも生まれていきました。
本当に出会わせてくれて、色々一緒に試してくれてありがとう!!!